人間の頭髪に薄毛をもたらす直接的な原因には様々なものが存在しており、例えば頭皮を不衛生な状態のままで放置しておくと次第に皮脂やフケやゴミなどが毛穴詰まりを引き起こし、頭皮を硬化させたり血行不順をもたらし頭髪の成長を著しく阻害することになります。また、生活習慣が頭髪にもたらす影響も大きく、仕事の疲労やストレスがホルモンバランスを狂わせて頭皮への皮脂分泌を悪化させたり、食生活やアルコール摂取などが同じ皮脂分泌や血行悪化をもたらすことでも薄毛は起こりえます。そして睡眠不足もまた頭髪が成長する時間を大幅に奪い、結果的に薄毛をもたらしてしまいます。しかしながらこれらと一線を画す原因として挙げられるのがAGAという病気であり、これは環境や状態から生じるのではなく、むしろ遺伝などによって先天的に引き起こされるものと言えるでしょう。そのため、薄毛を改善したいのであれば頭皮環境改善を目的とした育毛シャンプーを用いるケースとそうでないケースとを明確に分けて対処する必要があります。

それではAGAによる薄毛とは具体的にどのようにして生じるのでしょうか。この病気はまず親から受け継いだ遺伝子の中にすでにその発症リスクが情報としてインプットされていると言われます。まずはテストステロンと呼ばれる男性ホルモンが体内を巡る中で頭皮にある特殊な酵素、5αリダクターゼと反応してDHTという物質を作りだし、毛乳頭にあるアンドロゲンレセプターがこれを察知して結合します。するとこれまで順調に頭髪が成長してきたものが急に毛細血管から栄養分を吸収するのをやめてしまい、栄養不足に陥った毛母細胞は細胞分裂を鈍化させて頭髪の成長サイクルを大幅に乱すようになります。このようにして成長期にあった頭髪はいつしか退行期、あるいは休止期に陥り、最終的には毛乳頭を含む毛包そのもののスケールを縮小させていって、消滅してしまうのです。とりわけ、受け継がれた遺伝子の中にはこのアンドロゲンレセプターを数多く保有するようになることが情報として示されており、AGA患者は他の人に比べて体内で作り出されたDHTを感知しやすい体質を持つことになるのです。こうして一連のサイクルとメカニズムを経て薄毛は体質的に引き起こされていきます。つまり、この症状を改善しようとして毎日こまめに育毛シャンプーで髪を洗ってみたところで、もちろん普段から頭皮が汚れてそれによる薄毛も併発している人にとっては薄毛改善効果が得られることには変わりはありませんが、しかしあくまで得られるのは頭皮環境改善のみで、頭皮の毛穴の汚れを除去したり、あるいは毛穴から頭髪の成長に不可欠な栄養分を吸収させるなどの効果以上のものは得ることができません。これらが体内のメカニズムに作用してAGAを引き起こす原因を取り除いたり治療することはできないのです。

このように育毛シャンプーとは無関係のこの病気を治療するには、専門クリニックを受診して医師の診療や遺伝子検査、血液検査などを経た上で飲み薬や塗り薬を用いた手法を続けていく必要があります。飲み薬はプロペシアという錠剤が用いられるケースがほとんどで、これを1日1錠服用すると頭皮にある5αリダクターゼという酵素の働きを抑えることができ、結果的に男性ホルモンとこの酵素が反応してDHTを作り出す分量を抑制することが可能となります。また塗り薬は頭皮の薄毛部分に塗布することによって毛細血管を拡張する効果があります。血管の拡張によって血流量が上昇するとそれによって運搬される栄養分の分量も増え、頭髪の成長に不可欠な栄養分を過不足なく補充することが可能となります。こうして栄養不足に陥って細胞分裂が鈍化していた頭髪も再び成長を活発化させ、元の健康的な状態を獲得することができるのです。